恋の公倍数(受験生+塾講師)
信じてついてきな……
会ったばかりなのに。
まだ私の名前も知らないくせに。
私の席まで歩いてきた坂ノ上雅広。
私の痛んだ茶色い髪を、人差し指でチョンっと弾いた。
『信じてついてきな』
その言葉が耳から離れない。
そんなことを言ってくれる先生は、学校にはいない。
みんな私を見離していた。
個人面談でもいつも投げやりな私は、学校では
どの先生からも嫌われていて。
『高校なんかどこでもいい』
『受験なんかしない』
何を言っても誰も叱ってくれなかった。
親でさえ。
どうしようもできない子供を親は「塾」に捨てた。
塾さえ行かせれば、私が良い子になると思ったの?