恋の公倍数(受験生+塾講師)
「美春ちゃん、公倍数苦手だったよね~」
机に顔をくっつけて居眠りを始めた私にまーちゃんは近づいてくる。
時々名前で呼ばれることが、くすぐったい。
みんなの前では絶対に「鈴木」って呼ぶのに。
さっきの授業で私が間違えた問題と似た問題を10問、
まーちゃんはホワイトボードに書き始めた。
塾の先生と学校の先生の違い。
ホワイトボードと黒板。
黒ペンとチョーク。
「まーちゃん、将来何になるの?」
「俺?俺自身もまだわからない。俺、何になればいいと思う?」
ちょっとだけ茶色い髪を耳にかける仕草。
塾の先生なのに、中途半端な長髪で、茶髪。
バイク通勤だし、ピアスしてるし、
全然真面目じゃない。
でも、一番生徒に人気がある。
「まーちゃん、学校の先生になれば?」
振り向いたまーちゃんは、目を大きく見開いて近づいてきて
私のおでこに人差し指をくっつけた。