薔薇姫-バラヒメ-
カタン、と小さな音を残して、マレッタは椅子から立ち上がった。
紫色の双眸で、あたしを見据える。
「…帰りますわ。わたくしと勝負なさる気になったら、あなたから訪ねて来なさい」
そう言い残し、マレッタは部屋から姿を消した。
閉められた扉を、あたしは見つめるだけ。
…苦しい。
どうして?
"裏の顔"を、あたし以外に見せてるのが悔しくて。
婚約者って名乗る女の子がいることが嫌で。
何百年も前から想いを寄せてる人がいることが悲しくて。
…あたしを"薔薇姫の子供"としか見てくれていない事実を、認めたくなくて。
レオのことを考えると、どうしようもなく苦しくなる。
あたしは、そっと瞳を伏せた。
―――この気持ちは…