薔薇姫-バラヒメ-
中学に入ってからでも、高校に入ってからでも、教えてくれればよかったのに。
そう思うのは、あたしの我が儘なのかな。
「…ごめんね、芽依」
お母さんのか細い声が、あたしの耳に届く。
「あなたが…辛い思いをするかもしれない。そう思うと、言えなかったの。それに…」
一呼吸置いて、お母さんは続けた。
「この事実を、娘のあなたに話すことが…私にとっては、何よりも辛かった」
…お母さんは、愛しいひとの傍に、いれなかった。
今のあたしならわかる。
認めたくないんだ。
もう愛しいひとに、会えないことを。
「ごめ…な、さ…」
あたしの口をついて出たのは、謝罪の言葉。
ただ、涙のせいで、まともに言葉に出来なかった。
「何であなたが謝るの?芽依」
優しいお母さんの表情に、声音に。
…涙が、止まらない。