薔薇姫-バラヒメ-
あたしの驚きの表情から言いたいことがわかったのか、お母さんが話し始めた。
「あれは…私たちが海外に行って、一年が経った頃。去年の話よ」
―――…
私たちの宿泊先のホテルのベランダに…一人の男の子が降り立った。
驚いたわ。
背中には漆黒の翼。
まさか…って思った。
部屋からその光景を見ていた私は、すぐに窓に駆け寄った。
ゆっくりとこっちを振り返る男の子は…金髪に紅い瞳。
すぐに、魔族だってわかった。
驚きは、すぐに恐怖へと変わったわ。
見つかってしまったら、私はどうなってしまうのか、わからなかったから。
けど、その男の子の優しい瞳を見たら…逃げようなんて考えは、すっかりなくなっちゃった。
私が窓の鍵を開け、部屋に招き入れると、それまで黙っていた男の子が、急に頭を下げた。
「すみません」