ハスキー
6限目は数学だったらしい。
そしてあたしの机の上には雑巾。

あいつらか。
あ"―――ウザイ,
と思いつつ,雑巾を片付ける。
『ナル――!!
来て早々お前どこ行くつもりだ?』
くそゥ,今度はあいつか。
荒井が怪訝そうな顔でこっちを見ている。
あとちょっとで教室から出れたのに。

『いや,ちょっと気分悪くなって...』
『じゃぁ手に持ってる雑巾はどうしたんだ?』
言い訳がベタすぎる。
何ドギマギしてんだ,あたしは。
あいつの声のせいなのか?
あの低い声があたしに思わせる。
全部言ってしまえばいいのに。

クラスの視線が痛い。
特にあのキツネが睨んでる。
バレたら殺すってか。
面倒すぎる。

『...あ――,気分悪くて吐いたときのための事前準備?』
苦しい言い訳だ。
荒井があたしをじっと見た。

やめて,そんな眼であたしを見ないでよ。
心の底から思った。
ふと荒井が眼をそらして『わかった。』と言った。

でもその『わかった。』はあたしが聞いた今までで一番寂しい声だった。
ハスキーな声がいつもと違う表情を現していた。
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