【長編】Sweet Dentist
【第2章】10月7日(金曜日)
その日あたしがそのホテルにいたのは本当に偶然だった。


パパの友達のパティシェさんのいるそのホテルはこの辺りでも一流で、特に一階にあるカフェのケーキバイキングは一日限定100組と制限されているほどの人気ぶりなの。

あたしはパパのコネで、友達と一緒にその、ケーキバイキングにやってきた。
もちろん美味しいケーキを食べたいのもあるけど、今度の大会のための勉強のためでもある。

味はもちろん、配色や飾りつけなんかも、すごく参考になる。

12月5日の大会まで2ヶ月を切った。
そろそろ本腰を入れて、どんなお菓子を作るか考えていかなくちゃいけない。

今までにもいろいろ作っては試食してきたけれど、今ひとつあたしの特徴を出せるコレといったものに出会えないでいる。
あたしらしいお菓子ってどんなんだろう?

あたしはまだその答えを見けられずにいて、こうしてわざわざ話題のケーキを参考にするために、高校生には敷居の高いホテルまで足を運んできたんだけど…



別に気配を感じたわけでもなかった。

ただなんとなく、本当になんとなく引き寄せられるように振り返っただけだったのに…

そこに信じられない人を見た。



金髪の短い髪ツンと立てて、耳にはあのオニキスのピアスをした嫌味な男。
今日は先日とは雰囲気が違って、ちゃんとスーツを着こなしている。

大人の魅力とまでは悔しいから言わないけど、すごく人目を惹いてかっこいいかもしれない。
…って、何考えてるのよ。あいつは確かに顔はいいけど性格はサイテーじゃない。
見とれるなんて、冗談じゃない。そんなことあいつにバレたらまた、何を言われるもんか分かったもんじゃない。



『俺にほれたの?』



くわ~~~!!今思い出しても腹が立つ。あの自信過剰男。

一週間後の再診で会わなくちゃいけないのを恨めしく思っていたのに、こんなに早く会うことになるなんて今日の気分は最低だわ。

ああ、冗談じゃない。願わくばあいつがあたしに気づきませんように…。



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