【長編】Sweet Dentist
「すっかり遅くなったな。時間は大丈夫か?俺からご両親に連絡しようか?」

千茉莉を送る帰り道。
予想以上に遅くなった事を気にして声をかけた。

「ううん、大丈夫です。さっき電話したときに杏先生からも言葉を添えてもらったから」

「そうか。杏ちゃんには世話になったな」

楽しい時間はあっという間に過ぎて、時計はもうすぐ12時になろうとしている。

「すごいですよね亜希さん。一人で海外に留学して夢を叶えるなんて…」

千茉莉は溜息と共にそう言った。

自分を重ねているんだろうか。

助手席を横目で見ると、いつもより大人に見える千茉莉の大きく開いた胸元で目線が止まり、慌てて視線を逸らした。

「そうだな。亜希は努力家だったし、真っ直ぐに夢を追いかけていたからな。まるで千茉莉みたいだよ」

俺は平静を保っているだろうか。
ドキドキと耳元で五月蝿いくらいに心臓の音が大きく聞こえる。

「千茉莉も真っ直ぐに夢を追いかけている。俺にしたら凄く眩しいよ。いつか輝く翼をはばたかせてどっかに飛んで行っちまうんだろうな」

自分で言いつつも本当は離したくないと思っている。

だけど亜希の時のように後悔はしたくない。

彼女を手の内に留める事なんて絶対にしてはいけないことだとわかっている。

千茉莉は広い世界へ飛び立つ輝く翼をもっているのだから。



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