【長編】Sweet Dentist
「あたしは…好きな人が行くなって言ったら、きっと留学なんて出来ないと思う。大好きな人に一番に食べてもらえなかったら、美味しいお菓子なんて意味が無いんだもの」

「そんな事言うなよ。お前には才能があるって聖良ちゃんも言っていた。留学してみんなを幸せにするお菓子を作るパティシェになるんだろう?」

「……」

「おまえはその夢を叶えるんだよ。きっとなれる。
俺はおまえにあの日救われた。聖良ちゃんも、杏ちゃんもおまえには色んな形で救われているんだよ。
おまえには人を救う才能がある。
それは千茉莉が生まれてくる時に与えられてきた使命みたいなものだと俺は思っている」

「…使命?」

「おまえの天職ってヤツさ。お菓子で人を幸せにするって言う使命を、神様から与えられて生まれて来たんだろうな。
おまえの背中には輝く天使の翼があるよ」

「翼…?」

「俺は千茉莉に出会ったあの日、おまえの背中に天使の羽を見たよ。
おまえは自信を持って飛び立てばいいんだ。俺も応援してやるよ」

微笑んで千茉莉を応援している大人の自分を演じてみるが、本当はウソだ。
見栄を張っているだけだ。
ドレスを着て聖良ちゃんに手を引かれて出てきた千茉莉は、すごく綺麗だった。
心を奪われるってああいうことを言うのかもしれない。
17才だなんて思えないくらい色っぽかったし、誰にも見せたくないくらい綺麗だった。

もう千茉莉しか視界に入ってこなかった。

離したくない。
誰にも譲りたくなんか無い。
手元に置いて自分だけのものにしておきたい。

一旦認めた気持ちは、制御を失いどんどん膨らんでいく。

俺がこんな気持ちだって知ったら千茉莉は困るんだろうか。

そのドレスを着たおまえを、このまま抱きしめてキスしてしまいたい衝動に駆られるのを、必死に止めているなんて…
口が裂けても言えないよな。

千茉莉…おまえが好きだよ。

この気持ちを伝えたら…おまえは応えてくれるだろうか。




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