【長編】Sweet Dentist
自宅に前に車を着けると、まだ足の痛む千茉莉を抱き上げる。

千茉莉は大丈夫だと言い張るが、どうしても抱いていたかったというのが本音だった。

「大人のデートはおしまいだ。背伸びは楽しかったか?」

「う…ん。もう子どもに戻る時間だね。まるでシンデレラみたい」

怪我をしたほうの靴を俺に見せながら笑う千茉莉の顔が、月の光を浴びて妖しく陰影を帯びている。

見上げる瞳が星を散りばめたように光って、いつもより紅い唇が艶やかに俺を誘っている。

「クスッ…シンデレラか。確かにそうだな。
ちょうど12時だ。じゃあ、姫には靴を片方置いて行ってもらおうかな?」

「あはっ、先生ったら…」

「靴なんてなくたって見つけてやるから」

「…え?先生なんて言ったの?」

「なんでもない。それより大人のデートって言うのは最後はキスで締め括るもんなんだが…姫は王子にキスを許してくれるのか?」

冗談めかしてかなり本気で言う。
千茉莉の瞳が潤んで俺を誘っているように見えるのは、俺の願望なんだろうか。

「千茉莉には頬へのキスが精一杯かな?」

本当はその唇に触れたい衝動を抑えることなんてできそうにない。
そっと薔薇色の頬に唇を寄せ、甘い香りを堪能しながら、ゆっくりと唇の端ギリギリの場所に移動しキスを落とす。

千茉莉はそれに反応するように細く震えると、小さな声で呟いた




「センセ…大人のキス…教えて…」




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