【長編】Sweet Dentist
好きだと気付いてから、この気持ちがどんどん留まる所を知らずに膨れ上がっている。

頭では理解している。

先生はこの数年の間にきっと結婚するんだろう。

響先生はあたしに特別な感情を持っているわけじゃない。

あのキスだって、先生が冗談で言ったことをあたしが本当にして欲しくて…誘ったようなものなんだから。

大人のデートの終わりを告げた熱いキスを思い出して唇が熱くなる。

瞳を閉じるとあの日の響先生の広い胸から伝わった熱を思い出す。

震えるあたしの唇にかかった熱い吐息、宥めるように触れた優しい響先生の唇の感触が蘇る。

体の芯がとろけそうで、頭がくらくらするような激しいキスをただ必死で受け止めた思い出が胸を締めつけ切なくする。


先生が亜希さんを忘れられない理由が分かった。



実らなかった恋は綺麗過ぎて…思い出が鮮やかに胸に蘇ってしまう。

些細な事でも、とても大切だったからこそ、全てが輝いて見えて、大切に大切に心の奥底に封印したくなる。

いつもは冷たい先生が突然見せる優しい笑顔をあたしは知っている。

先生の意地悪な表情の下に優しい顔があるのをあたしは知っている。

本当は誰よりも優しくて、誰よりも繊細で…

心の奥底で悲しみを抱えてたった独りで何かに耐えている。

その心を助けてあげたくても、手を伸ばしていいのはあたしでは無いのだと思う。


それをしていいのは、響先生が愛した女性だけ…。


あたしはこの想いをどうすればいいんだろう。


苦しいよ…響先生






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