【長編】Sweet Dentist
「今日はこれで許してやる。いいかげんに大人に対する言葉づかい覚えとけよ…って、え?おまえキスもしたこと無いとか?」

「……ないわよ。悪かったわね。」

あたしの瞳にはいつの間にか涙がたまっていて、あいつの顔が滲んで見えていた。

「このっ…プレイボーイ。ひどい、あたしのキス…。」

「唇にはしてないだろうが、ホッペだろ?ほんの挨拶だよ。」

「ばかっ、あなたなんか大嫌い。ホッペだって大事なファーストキスだもん。例えホッペにするキスでもはじめてだったら好きな人にしてもらいたいじゃない。何でそんなこともわかんないのよ。このヘンタイ。」

「あなたとかヘンタイとか、随分な呼び方ばっかりしやがって…。おまえが天使だと思った俺がバカだったよ。」

「…は、天使?」

「こっちの話だ。なんでもない。」

そう言いながらあいつは運ばれてきた紅茶を飲みだした。
そんな仕草まで決まっているから余計に悔しい。

あたしを無視して空と楽しそうに話す様子を見ていると、ますます腹立たしくなってくる。

「空、帰ろう。こんな人と食べたらせっかくのケーキもまずくなっちゃう。センセここのお支払よろしくお願いしますね?」

センセというところにワザと力を入れて呼んでやる。

「なっ…何で俺なんだよ」

「当たり前です。あたしのファーストキス奪っておいて、隣りにまで座らせてあげたんです。安すぎるくらいですよ。」

まだ、うっすらと涙の滲む瞳でギッと睨み付けると、あいつは、「ファーストキスじゃないだろう?」とか何とか言いながら、はあっと溜息を一つついた。

あんたにとってはそうかもしれないけど、あたしにとってはファーストキスなのよ!!

「じゃ、失礼します。再診の日まで絶対にあたしの前に顔を出さないで下さいよ。さよならっ!」


フン!と鼻息が聞こえそうな勢いでそういい捨てて、あたしは空とその場を後にした。


あいつが何か言っていた事なんて気付きもしないで・・・。


「あいつ…本当にあのときの天使なのか?」



++ 10月7日 Fin ++



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