【長編】Sweet Dentist
親友の暁(さとる)から杏(あんず)ちゃんの知り合いを治療してやって欲しいと言われたとき、通常なら女と言う事理由で断ったはずの治療を引き受けたのは、彼女の名前を聞いたからだった。

俺は基本的に女の治療はしない。

俺の顔目当てや交際目当てで治療に来る女は後を断たない。

それに嫌気がさした俺は、女性の治療を受け付けるのをやめ、院長である父親や他の先生に女性患者をすべて頼む事にした。

そして自分の周囲から極力女性を遠ざける事を決めた。まあ、医院のスタッフはほとんどが女性だからこれは仕方が無いが…。

医院の中でさえ、俺に好意を持っている者がいるらしいが、一言でも俺に好意ある態度をみせたものは、今まで全部退職を願ってきた。

だから、今では誰も俺に交際を申し込んできたりはしなくなったが、それでも、しつこく治療を頼みに来る患者は後を断たない。

本当にいいかげんうんざりする。なんで俺なんだよ。




考えてみれば昔からそうなんだ。

俺は昔からモテた。
俺が望んだ事は一度も無いのに…だ。
羨ましいと友達からは言われるが、俺はむしろ迷惑なんだ。
モテるゆえに俺が好きになる女は必ず口をそろえたように同じ事を言う。

『あなたと付き合っていると不安になる。』

俺と付き合いたいという女が後を断たない事にプレッシャーを感じたり、嫌がらせを受けたりと言う事に耐えられなくなるらしい。

俺は自分が惚れた女以外はどうだっていいのに、何でいつも好きな奴には振られて、嫌いなタイプの女ばっかり寄って来るんだろう。

もう、心から誰かを好きになるなんて感覚は忘れてしまった。

誰かを愛しく想ったり、切なく胸を締め付けられたり…

そんな感情はずっと遠い記憶の奥底に落としてきてしまったような気がする。


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