【長編】Sweet Dentist
朱に染まった空に、響さんの金の髪が蜂蜜色に輝く。

楽しい時間も幸せな時間も、永遠には続かない。

ずっと同じ場所で留まっている事なんて出来ない。

歩き出さなくちゃ行けないときは、すぐ目の前まで来ている。

解っている。

だけど…

せめて今日だけは…

あと少し、幸せな余韻の中で、響さんと過ごしていたい。

あたしの思いを察したように、不意に目の前に落ちた影。

響さんは長身を屈め、あたしの耳元に唇を寄せるとそっと囁いた。


「何だかまだ帰したくないな。…このまま少しだけ遠回りしてあの公園へ行こうか?」


公園への道のりを、先ほどまでより遅い歩みで進みだす。

沈みゆく夕陽に二つの影が長く伸びる。

少しずつ近くなるそれは、やがて自然に重なっていった。


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