【長編】Sweet Dentist
ガチャッ…
開け放たれたドアから、無数の真っ白の羽が風に舞い流れ込んでくるイメージが俺を包んだ。
驚きに目を見開き、瞬きをする間にそのイメージは消えてしまったけれど…確かにその光景は俺の眼に焼きついた。
風に舞い踊る純白の天使の羽
ドアの前には綿飴みたいな髪をした千茉莉が呼吸を乱して立っていた。
「ハアッ…ハァ…すみま…せん。遅くなって。学校でちょっと先生に呼び出されて…。」
一気に俺を包む安堵感。
一瞬確かに見えた白い羽の幻が千茉莉に重なる。
「呼び出し?赤点でも取ったのか?」
「なっ…違います!!今度の大会の事で呼ばれたんですよっ。ああもう。会うなりいきなり…
もうっ、むかつく!!」
千茉莉がぷうっと頬をふくらませて怒り出す。
そんな仕草に安堵して、また次の言葉で追い討ちをかける。
「まあ、そう言う事にしておいてやるよ。遅れたんだからそれなりの覚悟は出来ているんだろうな?さあ、バツに何をしてもらおうか・・・。」
「何でよっ?理由がちゃんとあるのに…この横暴ヘンタイ医者!!」
千茉莉の言葉に苦笑しながらも、この時間が俺を癒している事に初めて気付く。
随分と捻くれた天使だがこんな時間もいいのかもしれないと思っている自分がいる
もう、信じられない!!とか何とか怒りながら診療台に乗る千茉莉。
そんな千茉莉をもう少しかまってしまいたくなる自分はやはり今までとは少し違うのかもしれない。
「ヘンタイって…それは止めろって言ってんだろ?先生って呼べよ。」
「この間呼びましたよ。アレでもう1年分は言いましたから当分呼びません。」
…ったく誰が恋煩いだって?
こんなクソ生意気な天使、誰が何て言ったってそれは絶対無いだろうな。
俺はそんなことを憮然と思いながら治療を始めた。
白い羽が舞う
そのイメージが俺の心をとらえて離さなくなっていく。
そのことに俺はまだこの時気付いていなかった。
++ 10月11日 Fin ++