【長編】Sweet Dentist
じゃあ何、あたしには何であんなにイジワルなわけ?訳がわかんないよ。
子どもだから…?子どもだから優しいの?

そう言えば女は診ないとか言っていたよね?あたしが女だから冷たいのかな。

そんな事を考えながらぼうっとしていると、あいつの皮肉を込めた声が降って来た。

「いい?このおねえちゃんはね、歯医者さんが大っ嫌いなのに虫歯になったケーキ屋さんなんだよ。雄介君はケーキが好きかい?」

「うん。だあいすきだよ。」

「そうか、でもこのおねえちゃんみたいに治療中にワンワン泣いたり暴れたりしちゃダメなんだよ痛くないからね?じっとしていたらすぐに終わるから。イイコにしているんだよ?」

なっ!!あたしがいつ泣いたのよ。
あいつは目配せしながら続けてくる。

「お姉ちゃんも最初は怖くて泣いちゃっんだけどね、『先生の治療は痛くないから』ってもう泣かなくなったんだよ。ねえ、千茉莉ちゃん。」

ねえ、千茉莉ちゃん…

なによそれ?

呼ばれたことの無い呼び方に思わずときめいてしまう。

…なに、動揺してるのよあたしったら…。

おっと。話をあわせて怖がらない様にしてあげなくちゃいけないのよね?
さっきやたらと『先生の治療は痛くないから』って所に力を入れていたわよね?…ってことは …。

「うん、そうよ。おねえちゃんね、ケーキ屋さんだから甘いもの食べ過ぎてすぐに虫歯になってしまうの。
でも、響先生がとっても優しくて、上手に治してくれるからすぐにまた、美味しいケーキが食べられるようになったんだよ。
響先生に任せておけば大丈夫だから…だから頑張って治そうね?お姉ちゃんここで見ていてあげるからね。」

自分でもこんなに優しい言葉が自然と出るなんて思わなかった。

自然に響先生って自分から、言っていた。嘘みたい…。

もしかしてあいつの考えてたバツゲームって…


あたしに先生って言わせることだったんだろうか



なんだか、響先生と言う言葉が魔法のように胸にすとんと納まった。

子どもを見つめる響先生の瞳から目が離せなくなる。


何故だろう…。


『響先生』


その呼び方を心で繰り返すだけで胸がドキドキして止まらないの。






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