【長編】Sweet Dentist
千茉莉になんとか先生と呼ばせたくて、バツゲームを口実に作戦を考えた。

子どもの前でさすがに怒ることもないだろうと思った俺は、千茉莉の後の予約につき合わせることにした。

案の定あいつは嫌がっていたが、最終的には何かを企むようにニコニコ同意してきた。
きっとあいつの事だから、俺が子どもをどんな風に治療しているのかとか考えてるんだろう。
あいつの中の俺のイメージってかなり悪いらしいから、きっと子どもを泣かすんだろうとか考えているんじゃねぇかな。

…もしかして逆バツゲームのネタでも捜そうと企んでるのかもしれない。

まあ、それでもいいさ。とりあえず、『あなた』から、『先生』へ昇格さえ出来れば。

そう思っていたんだけど・・・予想外の言葉があいつの口から飛び出したときには本当に驚いた。

驚いただけじゃなく、すごく嬉しかった・・・。



響先生がとっても優しくて、上手に治してくれるから…。

響先生に任せておけば大丈夫だから…。



なんだろう。子どもの前だから、合わせて言ってくれているだけなのに、それでも心臓がバクバク鳴って、顔が緩んでいってしまうのを止められない。

何でだ?

何だろう。この心の満足感は…。



千茉莉のせいなのか?

どうして千茉莉の言葉にはこんなにパワーがあるんだ?


治療を終えた雄介君を抱きしめるように診療台から降ろしてやる千茉莉。
「良く頑張ったね。えらかったよ。」そう言って褒めている姿をぼんやりと眺める。

「おねえちゃん、やさしいね。ぼくのおよめさんにしてあげるよ。」

そう言う雄介君に、やんわりと微笑みかける輝かんばかりの笑顔。

その瞬間……

部屋全体が眩いばかりの光に包まれ千茉莉の背中に一瞬白い羽が見えた気がした。



白い羽が風に舞い俺の心を包む…。



心に羽が降り積もりその中に暖かい光が降り注ぐ



胸の中に流れ込んでくるそのイメージが俺が進むべき道を真っ直ぐに照らし始めていた。




++ 10月18日 Fin ++

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