【長編】Sweet Dentist
幼い頃に一度だけ会った、金髪の背の高い男の人。

声をかけたあたしに驚いたように振り返ったその人の瞳は、とても不思議な色をしていた。

漆黒の夜の闇を映したような黒い右の瞳。

そして雪の降る凍りついた空を思わせる灰色の左の瞳。

オッドアイってあの時初めて見たけれど
とても綺麗なその瞳に
あたしは引き寄せられる様に目を奪われた。

男の人を綺麗だと思ったのはこのときが後にも先にも初めてだった。

あたしに微笑みかけてくれたその人は、とても綺麗だった様な気がする。


今となっては余りにも幼い記憶で顔さえも覚えていないけれど
彼の美しいオッドアイは今でも忘れられない。

左右に違う瞳の色。

夕日を逆光に受け輝かんばかりの黄金を放っていた髪の色。

彼はどこの国の人だったんだろう。

彼はとても遠い目をして何を思っていたんだろう…。

あの日の光景が今もあたしの胸を切なくさせる。

瞼の裏に鮮やかに蘇るのは
思い出の中の夕日を背に受け
綺麗な瞳を細めて眩しげに微笑みかける長身の男性。


彼は今、どうしているんだろう。



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