【長編】Sweet Dentist
「ハンマーで頭を殴られたような衝撃だったよ。
俺はなんて情けない男なんだろうって思ったね。
それで腹を括ったんだ。
どんなに親父に反対されてもいつかきっと夢を果たすってさ。
さっき響君もアリスさんと同じことを言っただろう?
親子で同じ事を言われるなんてな。…本当に驚いたよ」

その偶然に、あたしは響さんの中に、確かにアリスさんの残したものが息づいていることを感じることが出来た。

アリスさんがどんな理由で響さんを置いて出て行ったのかは解らない。

だけど、彼女の愛情は、彼の中にこんなにも深く刻まれていた。

そのことが嬉しくて…

良かったね…

そう気持ちを込めた視線を響さんへと送った。

彼は無言であたしを引き寄せ、肩に額を乗せると―…

声をあげる事無く、静かに涙を流した。



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