【長編】Sweet Dentist
「父は今でもあの場所で母の帰りを待っています。
…そんなに好きならどうして別れたりしたのか、俺には理解できません」

「……そうか…。…あの人はまだ待っているのか。
…どうしても認められないんだな」

「神崎さん、知っているなら教えてください。
どうして母は俺を捨てて出て行ったんですか?」

「君を捨てて出て行っただって?
誰がそんな事を言ったんだ?
アリスさんは君を捨てなんていない」

『捨てた』と言ったことがよほど不快だったのか、パパは僅かに声を荒げた。

「いいか、響君。彼女の名誉の為に言うが、アリスさんは誰も捨てたりしていない。
彼女だってまさか二度と戻れなくなるんなんて、あの時は思わなかったんだよ」

その時の事を思い出すように、パパはとても哀しげに目を伏せた。

眉間に寄った皺が、パパが語ろうとしている真実の哀しさを物語っているようで

あたしはその先を聞くのが怖かった。


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