【長編】Sweet Dentist
―――バンッ!!
ドアが壊れるほどの勢いで開き、けたたましい大音量でバタバタと誰かが診療室へ入ってきた。
「響、女の子を治療しているって本当なの?」
思わず身体を離しドアを見つめると、そこには20代半ばと見受けられる派手な女性が立っていた。
顔立ちは綺麗ではあるけれど、とてもプライドが高そうできつい目をした女性が、見るからにブランドと分かる品々で飾りたてている。
彼女は高そうな香水の香りをさせながら、ツカツカとあたしたちの方に近寄ってきて、ちらりとあたしを一瞥すると響先生に向き直りしなだれるように先生に抱きついた。
「響、ひどいわぁ。私の治療は断ったくせにぃ。婚約者をわざと突き放すなんて酷いじゃない。女は診ないって言っておいて、こんな娘を治療しているなんて…。許せないわ」
響先生は不機嫌が服を着ているような顔になって女の人を引き剥がそうとしているけれど、彼女も益々身体を擦り付けるようにして先生に迫っていく。
あまりの光景にこの場にいてはいけないような気分になって、診療台を降りるととりあえず今日は帰って出直そうと心に決める。
さっきまでのキス一歩手前でドキドキだった心臓も
今は冷水を浴びせられたかのように冷たく冷静に戻っていた。
婚約者?
そんな人がいたのにあたしにキスをしようとしたの?
こんな人とキスしてしまうところだったなんて
…あたし、バカみたい。