【長編】Sweet Dentist
「お父さんに食べさせてあげて。…響さんと同じ効果は得られるかどうか解らないけど、もしかしたら、懐かしく思い出してくれるかもしれない。
ううん…アリスさんがきっと思い出させてくれると思うの」

「ああ…そうだな。迎えに行くときは千茉莉も一緒に行ってくれるだろう?」

「あたし?」

響さんを見上げると、同時にギュッと抱きしめられ、小声で耳元に囁かれた。

意外な台詞に驚いて聞き返そうとすると、お休みのキスを頬に残して、素早くタクシーに乗り込んでしまった。

唇の触れた頬を押さえ、ポカンとしている間に、響さんは笑いながら軽く手を振りタクシーを出した。

…彼の頬が少し赤かったように見えたのは、今にも消えそうな外灯の作った影のせいだったんだろうか。

黒い車体は滑るように走り出し、夜の闇に消えていく。

12月の冷たい夜風が、唇の余韻の残る頬を撫で、熱を奪っていった。

去り際に残されたテノールが、甘く切なく耳に残って、胸に熱いものが込み上げてくる。



『お前が傍にいてくれないと…とても会えそうに無いんだよ』



遠ざかっていく車が涙に滲んでいった。



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