【長編】Sweet Dentist
「ずっと傍にいて…支えていてくれるか?」

「…うん…ずっと傍にいるから…安心して」

自分の声がこんなにも頼りないと感じたことがあっただろうか。

母の事となると、俺はまるで道に迷った子供のように不安定になる。

「怖いんだ…母さんの事、確かめるのが…」

「大丈夫。あたしがいれば響さんは無敵よ。
きっとお母さんの事もちゃんと受け入れて乗り越えられる」

「―…ああ、そうだな」

フワリと香り立つ彼女独特の甘い香りに包まれ、徐々に波立つ心が凪いでいく。

ゆっくりと顔を上げると、穏やかに微笑む千茉莉に、還るべき場所に出逢った様なホッとするものを感じた。

「ずっとこうしている? それともシャキッとする?」

「…こうしていたい…けど、シャキッとしなきゃな」

「じゃあシャワーでも浴びたら?
少しは気持ちが落ち着くかもしれない。
お父さんとの約束までにはまだ時間があるわ」

「ああ…そうだな。そうするよ」


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