【長編】Sweet Dentist
千茉莉だって俺の父と会うことに緊張していないはずが無い。

ただ、俺の事を心配する余り、自分の事が後回しになっているだけなのだろう。

12歳も年上の俺が泣き言を言ってどうする?
と自分を振り返り、シッカリしなければと反省した。


ここまで来てしまったのだ。

その時はすぐ目の前まで来ている。

もう目を逸らし続けた傷から逃げるわけにはいかない。

自分の過去と向き合う為にここまで来たんだ。

そして…

そのために千茉莉が一緒に来てくれたんじゃないか。

照明を反射しながら壁伝いに流れる水滴をぼんやりと眺める。

滑り落ちる雫が、タクシーの中から見つめた、あの夜の外灯の光の筋と重なった。



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