【長編】Sweet Dentist
多少アルコールの力を借りていた為だと思うが、それは仕方がないだろう。

素面で父に向かって母の事を話して欲しいとは、幼い頃のトラウマでとても言えそうに無い。

千茉莉にはお酒の入っていないときに話せと言われたが、今夜この勢いで話さないと、もう二度とこんな気持ちにはなれない気がしていた。

幸い父はまだ起きており、突然の訪問を驚きながらも受け入れてくれた。

父と二人きりで向き合って話をしたのは、いつぐらいぶりだっただろう?

父のクリニックで毎日のように顔を合わせても、二人きりで親子らしい会話などした事も無い。

親子としての会話など、多分、歯科医になると決意し、それを父に報告したとき以来じゃないだろうか?

クリニックで働き出してからは、親子と言うより上司と部下の関係のほうが会話もスムーズだった為、あえて親子らしい会話を避けていた部分もあったかもしれない。

次から次へと持ち込まれる見合い話が五月蝿くて家を出てからは、プライベートな会話を極力避けていた自分に、今更ながらに気がつく。


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