【長編】Sweet Dentist
間の抜けた声だと自分でも思う。

「だから、俺が医者なんだって。あなたじゃなく先生って呼べよな」

ふん、と鼻息が聞こえそうな感じで吐き捨てるように言う。


こんな男が先生?

冗談じゃないわよ、治るどころか歯が無くなっちゃうんじゃないの?

眉間に思いっきり皺が寄るのが分かった。まあ、当然だと思うけど。

「・・・・・・おい、お前、今すっげー失礼なこと考えなかったか?」


この男・・・表情であたしの心読みやがった。


「あたし、遠慮しておきます。」

くるりと金髪男に背を向けて診療室を出ようとした・・・けど、こいつはしっかりとあたしの腕を掴んで離さない。

「や~め~て~!!絶対いや!あなたみたいな失礼な先生に治して欲しくなんかありません。」

「うるさい!問答無用だ。杏ちゃんから、千茉莉は歯医者嫌いだから痛くないように治せって言われてるんだ。俺は基本的に子どもと男しか治療してないんだ。おまえは特別なんだぞ。ありがたく思え。」


「……子どもと男だけ?じゃあ、女は診ないんだ。あたしも診てもらわなくて結構です。」

それじゃ、と言ってもう一度出口へ向かおうとした時、ふわっと自分が宙に浮いたのを感じた。


「え?あ…?……キャ―――――――――――ッ!!」



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