【長編】Sweet Dentist
部屋の外からざわざわと数人のスタッフがのぞきこんで様子を伺っている。

あれだけの騒ぎで誰も中に入ってこなかったのも不思議だけれど、こんなに散らかってしまった部屋を覗き込んでも、まだ、スタッフが誰も片付けに来ない事にも違和感を覚える。

どうやらこの部屋はVIPルームみたいなものらしい。許可がないと誰も入れないようになっているようだ。


そう言えばいつも不思議だった。


あたしはいつも、一番奥のこの個室の診療室で治療を受ける。

でも、他の患者さんはみんな手前のワンフロア―にパテ―ションで区切ってあるだけのスペースで治療を受けている。

この場所は響先生の治療を受ける人専用の診療室なのかもしれない。

ぼうっとそんなことを考えているうちに響先生が戻ってきて氷を頬に当てて冷やしてくれた。

火照った頬に冷たさが心地いい。

思わず瞳を閉じて溜息を付くと、響先生の心配そうなテノールがすぐ傍で響いた。


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