【長編】Sweet Dentist
避ける事は出来たはずなのにあたしには抵抗することが出来なかった。


『千茉莉はファーストキス…まだだもんな。ここは一番好きな人の為に取っておいたほうがいいな。』


響先生の声があたしの胸をよぎる。

多分あたしは後悔する。でも…響先生への想いは決して叶わない。

涙が頬を一筋流れていくのを感じた。

そっと唇を離して宙があたしを見つめてくる。

「千茉莉…好きだよ。今は忘れられなくてもいいから、いつか…俺を見て」

「宙だめだよ。あたし、あなたの気持ちを利用してしまう。優しさに甘えてしまう。そんなのは宙の為に良くないよ」

「それでもいい。千茉莉が俺の彼女になっていつか俺を見てくれるようになるのなら」



宙はそう言うともう一度優しく唇を寄せてきた。

重ねるだけの優しいキス。

それなのに…

触れた唇が心に反応してどんどん熱を奪われて冷たくなっていく。


響先生のキスはあんなに優しくて甘くて…


触れていなくても唇がとても熱くなったのに…


頬を伝う涙が止まらない。



『千茉莉、本当のキス教えてやるよ。』



響先生…


あたしのファーストキスの相手が…



あなたなら良かったのに…。




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