【長編】Sweet Dentist
不意に聞き覚えのある名前が聞こえた。


「何年おまえの事が好きだったと思ってるんだよ千茉莉」




―――千茉莉?




声のする方向へ回って歩いてみる。

ああ、ここは学校側からは死角になる告白スポットだったよな。

千茉莉…ここに呼び出されたのか



待てよ。




…って事は千茉莉が呼び出されて愛を告白されているとか。

なんなんだ?この胸のもやもやした気持ちは。

まるで俺が嫉妬しているみたいじゃないか。



…嫉妬――?




いや、ありえねぇし。だって12才も年下でクソ生意気な駄目天使だぜ?

たぶん千茉莉は似ているんだ、亜希に。

だから心惹かれるし、特別な感情があるような錯覚を覚えるんだ。

そう、そうだよ。単なる勘違いだ。

この間千茉莉が診療台で眠ってしまった時のことを思い出し、切なさや愛しさが甦ってきて俺の心を乱し始める。

俺の白衣を握り締めたまま涙の痕を滲ませて眠る千茉莉…。

僅かに開いたそのピンク色の唇から漏れた小さな呟きに俺の心は打ち抜かれたような衝撃を受けた。

愛しさで胸がつぶれそうに苦しくて…。


頭を振り、溢れそうになる切なさを振り切った、そのとき…



信じられない光景が俺の目の前に飛び込んできた。



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