【長編】Sweet Dentist
声も出ないくらい驚くあたしに、あいつはからかうように耳元でくすっと笑ったかと思うと「痛くないようにしてやるから心配するな」と言って、すっと体を離した。

「え?いっ、痛くないようにって…?なっななっ、何がですかっ!」

耳まで真っ赤に染まったあたしを見て、あいつは「バカかおまえ、何考えてるんだ?治療に決まってんだろ。」と冷たく言い放つ。

よかった、襲うってことじゃ無かったのね。心臓がまだバクバクと鳴っている。

大きく息をつき、その時ようやく自分が息を止めていたことに気づく。

腹の立つことにあいつはあたしの様子が可笑しかったのか横でケタケタ笑いながら目に涙をためている。

「あはははっ。千茉莉はまだ経験無いんだ。へえ…今時の女子高生にしちゃ珍しいんじゃないか?それとも相手にしてくれる彼氏もいないのか?」


ぶちっ!!



またも、地雷を踏んだこの男。本当にどうしてくれよう。

「ほっといてください。もてないわけじゃないんですから。単に好きになれる人がいないだけです」



そう、告白されたことは何度かある。でも、好きっていう感情を抱けるほどの人がいなかっただけ。



「それに、あなたには関係ないでしょう?ほうっておいてください!!先生なら先生らしく患者に優しくしたらどうなんですか?そんなんで本当に子供の治療なんてしてるんですか?」

あたしがそういうと、あいつはムッとした顔であたしを睨みつけた。

「バカにするなよ?俺は腕がいいんだ。すぐに証明してやる。ああ、もう!!いいから大人しくしていろ。動くと余計に痛いんだぞ?わかったな。」


そう言って本当に診療を始めたこの金髪先生…。


本当に大丈夫なんだろうか。



この先生に治療されるのにはすごく不安がある。


でも、長い付き合いの杏先生が自信を持って「絶対痛くないから」って太鼓判を押して紹介してくれたんだ。
しかも、杏先生のご主人の暁さんの親友だって言うし・・・。


やっぱりここで逃げるわけには行かないんだろうなあ




あたしは不安を拭いきれないままに、はあっと大きく溜息をひとつ付くと、腹をくくってギュッと目を瞑り、言われるがまま口を開けた。
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