初恋~俺が幸せにしてみせる~
1人歩く夜の街の中で
色んな事を考えていた

千穂は一度タクシーに
乗りかけて、振り返り
俺に抱きついてきた

そして耳元で

『ありがとう、大介』

と囁いてからタクシーに乗って走り去った

どういう意味の
ありがとうだったのか
俺にはよくわからない

微かな千穂の匂いを
俺の体から感じながら
ゆっくりと歩き続けた

考えるのは千穂の事

どれだけ歩を進めても
千穂の事しか浮かばない

こんなにも、千穂を
愛しているのに

俺の気持ちは一生
千穂には届かない

ふと涙が零れそうになる

何の涙なのかは
自分でもわからない

今部屋で1人になったら間違いなく俺は
号泣してしまいそうだ

情けなさすぎるだろう

誰も俺の気持ちなんて
知らないのに

涙に負けてしまう前に
薄い灯りの看板の
バーに入る事にした

酒なら俺の気持ちを
わかってくれるかも
しれないと思ったから

雰囲気のいい店だった

ジャズが流れていて
中年の男と若い男が
カウンターに立っていた

バーテンダーの2人は
俺に微笑みかけていた

カウンターの一番端に
座った俺に中年の男が
カウンター越しに
お絞りを手渡してくれた

俺はただ一言だけ

『傷を癒してくれる
一杯を下さい』

と呟いた
< 262 / 324 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop