初恋～俺が幸せにしてみせる～

奥さんはどんな時でも
俺に対して救ってくれと助けを請う事は無かった

ただ泣いているだけで
いつも俺の話を静かに
聞いているだけだった

千穂は違ったな…と
ふと考えていた

千穂は俺に救ってくれと助けを求めていた

何で救えないんだと
俺を責めた時もあった

それに答えられなかった
俺は情けない医者に
すぎないんだろうけど

同じ女性でも、それぞれ受け入れ方が違った

俺は自分が愛する人の
為に、奥さんを裏切った

医者として、それが
正しかったのかは
全くわからないけれど

今頃千穂は、北川さんの隣に寄り添って
手を握り、唇を重ねて
涙を流しているだろう

何となくそれが俺の
頭の中で想像出来た

最後の別れをしている
その２人の姿がなぜか
とても綺麗に見えた

まるでドラマの中の
ワンシーンかのように
綺麗な２人が浮かんだ

少しでも時間を稼ごうと奥さんに対して
涙をちゃんと消してから
病室へ行った方が
いいんじゃないかと
提案している自分が居た

口数の少ない奥さんは
溢れ出る涙を、何とか
止めようとしていた

俺は奥さんの事なんて
考えていられなかった

本当に悪い医者かも
しれないと思っていた

それでもいい

千穂が幸せだと思って
くれるなら、それでいい

それがきっと俺自身の
幸せになるんだから