初恋~俺が幸せにしてみせる~
部屋を出て、奥さんを
見送ると、柱の影から
千穂が下唇を噛み締めて俺の元へ走ってきた

躊躇いもなく、周りの
目を気にする事もなく
両手を広げて千穂を
受け止めていた

千穂は体を震わせて
俺の胸の中で泣いていた

泣くのを我慢しようと
すればするほどに
千穂の涙は溢れていた

俺はさっきまで奥さんと話していた部屋に
千穂を移動させて
もう一度ギュッと
千穂を抱きしめた

千穂は思いっきり
泣いているようだった

『ちゃんと話せたか?』

『うん。大介のおかげ』

俺はホッとしていた

北川さんがちゃんと
千穂が千穂である事を
わかっていてくれて
愛を確かめたのだと
確信出来たから

意識が朦朧としていたり会話がままならなければ千穂は満足なんて出来ていなかったはずだ

こんなに泣いているならきっと良い最後の別れをする事が出来たのだと
おれは思う事が出来た

辛くてたまらないはずの千穂は今は嬉しくて
泣いているのがわかった

幸せな愛の結末は
きっと素敵なものに
なったんだろう

北川さんを救えなかった罪悪感に苛まれながら
最後にようやく千穂の
為に何かをしてやれた

俺の胸の中で震えながら泣きじゃくる千穂は
少しだけ落ち着いていた

『大介、ありがとう』

目を真っ赤にして
お礼を言ってくれた
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