【短編】Kiss Me…
「あはっ…そうなんだ。
英輝ってそう言う気持ちであたしと今まで会っていたんだ。
そうだよね、端から見たら誰もが付き合っていると思っているのに、あたし達お互いに『好き』って言葉さえ交わさなかった。
英輝が何も言わなかったのは、あたしを友達として見ているからだと思っていた。」

苦しくて耐えていたものが頬を伝っていくのがわかった。でも…抑え切れない思いが堰を切って溢れ出しもう感情を堪える事なんて出来なかった。

「でも、違ったんだね。友達としてすら見ていなかったんだ。あたしのことなんて何とも思っていない癖に恋人のフリっをし続けるなんて…英輝も罪作りだよね。」

「おい、何を言ってるんだよ由美子。何で泣いているんだよ。」

「…あたしを見てよ。真っ直ぐに心を見せてよ。そうやって目を逸らしてばかりいるから英輝の気持ちがずっとわからなくて…もしかしたら英輝もあたしを好きなんじゃないかって期待したりして…。」

「由美子?」

「ずっと好きだったのはあたしだけで、英輝はあたしのこと好きでも何でもなくて恋人のフリだけしていたなんてっ…バカみたい。」

「好きって…由美子が僕を?本気か?」

驚いたように目を見開き、真っ直ぐにあたしを見つめる英輝。


やっとあたしを見てくれたの?

ずっとずっと見つめて欲しかった。あなたのその優しい瞳にあたしだけを映して見つめて欲しかったのよ。

でも、もう遅すぎる。今更その瞳を見てもあなたの気持ちがあたしに無いってわかってしまった今となっては。


「英輝なんて大嫌い。もうあたしの前に二度と現れないで!」


心が血を噴き出しているように痛んで立っているのがやっとだった。これ以上英輝といたらあたしの心は壊れてしまう。


「さよなら」


それだけ言うと英輝の横をすり抜け駅へと駆け出した。

英輝があたしを呼ぶ声が聞こえたけど振り返る気は無かった。ううん振り返るなんて怖くて出来なかった。


――― 英輝は最初からあたしなんて見ていなかったんだ…。


あたし…惨めだ。

虫除けか何か知らないけどずっとそれだけのために3年もあたしに付き合ってるなんて英輝も人が悪すぎる。


最初から恋愛対象どころか友達ですらなかったなんて…。
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