【短編】Kiss Me…
泣き顔で人ごみに行きたくなくて駅の手前の小さな公園に入ると水呑場でハンカチを濡らした。
ベンチに座って固く絞ったハンカチを閉じた目に乗せて腫れぼったくなった目を冷やす。

だけど冷やしているのに、次から次へと涙が溢れてきてその効果も期待できそうに無い。




「…ひどいよ…英輝。ずっと好きだったのに…。」




「そう言う言葉はもっと早く聞きたかったんだけどな。」




突然の聞きなれた声にビクッとしてハンカチを落としてしまう。恐る恐る顔を上げると目の前には息を切らした英輝が機嫌の悪い顔で立っていた。



―― 真っ直ぐにあたしを見つめて。



反射的に立ち上がり英輝に背を向けると顔を見られないように走り出す。


だけど、男の人の脚力に敵う筈なんて無くて、英輝は回り込むようにあたしの行く手を阻んで立ち塞がった。

「由美子。まてよ!」

勢いのついていたあたしは急に止まる事も出来なくて、そのまま両手を広げた英輝の腕の中に突っ込む形で抱き止められてしまった。

慌てて腕から逃れようとするあたしを英輝は逃がさないというように、力を込めて抱きしめてくる。


「逃げるなよ。このバカ…僕がどんな想いで3年間手を出さずに君をただ見つめてきたと思っているんだよ。」


英輝の強い力に息苦しさを覚えていたあたしは、彼の擦れた声が耳元でそう言うのを、夢の中のように聞いていた。
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