【短編】Kiss Me…
「由美子…化粧なんてしなくても良いから。髪だって…綺麗だったのに染めたりするなよ。」

名残惜しそうに唇を離すとおでこをコツンと寄せて英輝は言った。

「どうして…?英輝に振り向いて欲しくて綺麗になろうと思ったのよ?」

「これ以上綺麗になったら大学中のヤローどもに注目されるだろ?ダダでさえ由美子は人気があるんだからちょっかい出されると困るからな。」


「そんなにもてないわよ。今までだって英輝が彼氏だって思われていたから誰も近付いてこなかったじゃない。心配しすぎよ。」

「わかってないんだな。今まででさえ、人気があったんだぜ?由美子はこれからもっと綺麗になっていくよ…僕にめいっぱい愛されてね。」

めいっぱい愛されて…その言葉に思わず顔が赤くなる。そんなあたしに『りんごみたいだ』と嬉しそうに頬擦りするように抱き寄せる英輝。

「心配するな…なんてそんな事は不可能だね。由美子が授業で男の隣りに座っただけでもきっと嫉妬で狂いそうになるよ。」

「嫉妬?英輝が嫉妬なんてするの?」

「するさ。僕は意外と嫉妬深いんだ。覚悟しておいてくれよ。それから…君には虫除けが必要だな。」

「虫除け?英輝がそうなんでしょ?」

「いや、今以上に綺麗になっていく由美子を今までのままのやり方で護れるわけ無いだろう?君はただでさえ無防備でほうっておいたら何をしでかすかわからないんだからね。」

そう言って意味ありげににやりと笑った顔が妙に色っぽくて、ざわりと肌が粟立った。

英輝は抱きしめた腕を緩めると左手は腰を引き寄せたまま、右手であたしの頬を撫で、その指を唇から顎へと移動させた。
そのまま慈しむように首筋に指を滑らせると愛撫するように優しく撫でながら耳を噛むように唇を寄せて囁いた。

「どの辺りにつけるのが有効かな。」

「…?」

不思議そうに見つめているあたしに、見惚れるほどの妖しい微笑でもう一度キスをする英輝。

「虫除けにはキスマークが一番有効的だろう?」

英輝の言葉の意味を知り顔が一気に赤くなる。そんなあたしを嬉しそうに抱きしめて痺れるような声で彼は囁いた。



「由美子…すれ違った時間を取り戻そう。今日はもう帰さないから…。」




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