【短編】Kiss Me…
高端英輝(たかはたひでき)彼は同じ大学の医学部の先輩だ。
身長176cmスラリと細身で長い手足をした彼は大学でも人目をひく存在だ。
陽に透けると沈む夕日を思わせる紅い茶色の癖毛に、その瞳は色素の薄い茶色で、光が入るとまるで琥珀石のように見える。彼の瞳に真っ直ぐに見つめられて心を奪われない女の子はいないかもしれない。

あたし、山村由美子(やまむらゆみこ)は大きな二重の目に明るいのクルミ色の瞳。英輝とは対照的な夜の闇を思わせる漆黒の髪をしている。癖の無い艶やかで真っ直ぐな背中までのストレートの髪。ずっと前に英輝が綺麗だと言ってくれたこの髪をあたしはとても大事にしている。

周囲から見るとあたしと英輝は恋人同士にみえるらしい。

らしいって言うのはね、彼があたしの事どう思っているか良くわからないから。

あたしよりひとつ年上の英輝とは1年生の頃知り合った。

友達の彼の親友として…。

あたしの親友、飯塚ひかり(いいづかひかり)が英輝の友達の村元幸人(むらもとゆきと)さんと付き合い始める前、なかなか告白できないふたりがじれったくて英輝とふたりでチャンスを作ってやろうと、良くダブルデートをした。

あたしたちの苦労が実ってひかりと幸人さんは付き合いだして、そろそろ3年になる。

そう、つまりあたしと英輝の友達関係も3年間何となく続いている。

医学部の彼と薬学部のあたしでは棟だって違うし普段学校で会う事は滅多に無い。サークルにも入っていないあたしたちは特に決まった日に会ったりするわけではなくて、何となくメールで連絡を取り合ってご飯を食べに行ったりするって言うくらいの仲。

これって付き合っているって言うのかな?

でも、誕生日やクリスマスなんかのイベントにはプレゼントを交換したり遊びに行ったりしているし…。

だからと言ってキスの一つもした事すらないんだよね。

英輝はあたしの事、どう思っているんだろう。

もしかしたら男友達くらいのレベルでしか見ていなかったりして……。

自分が思った事なのに誰かに殴られたような衝撃を受ける。


……あたし…バカだ。


あたしだって一度も好きって英輝に言った事無いじゃない。


……言えたら楽になれるかも知れないのに…ね。

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