【短編】Kiss Me…
でも、英輝は『ふうん』と一言言っただけで、それ以上あたしの容姿についてコメントを避けるように無視して別の話を始めた。

いつもと何も変わらない当たり前の風景の中を彼と一緒に駅まで並んで歩く。

相変わらずあたしの目を見て話さない英輝。
あたしが少しくらい女らしく着飾ったって、少しくらい綺麗になったって英輝には何てことないんだ。

あなたのために綺麗になりたくて、ひかりに教えてもらった薄化粧。

あなたは何も感じてくれないのね。

やっぱりあたしには…興味が無いの?

ねぇ…こんなにあなたを好きになっていくあたしの気持ちをどうしたらいいの?

端から見るとまるで恋人同士のように見えるあたし達。

でも実際にはたった一言『好き』と言った事もキスの一つもした事がない。

英輝の本当の気持ちを知りたい

だから…あなたの気持ちを確かめる最後の賭けをする。


「ねぇ、英輝。」

歩みを止めたあたしを不思議そうに振り返る英輝の瞳を真っ直ぐにとらえる。

そんなあたしから僅かに視線を逸らし、真っ直ぐには決して見ようとしない英輝。

それでも万感の想いを込めて潤んだ瞳で彼を見つめた。


「…キスして?」


戸惑うあなたの視線を追って静かにあなたの言葉を待つ。

ねえ。あなたの気持ちを聞かせて
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