女子高生はオオカミ男。
「あの……教科書、貸してくださいませんか?」

隣の見た目美少女、中身オオカミが声をかけてきたのはHRが終わってすぐのことだった。

「まだ届いてなくて……すみません」

すぐさま逃げようとした私の計画はあえなく撃沈。

そしてまた狼は小声で囁くのだ。

「そう何度も逃げられると思うなよ?」

なんかもう、気力を失ってよろよろと椅子に座りこむ。

「はい、どーぞ…………」

教室中の目が光る中、うかつな真似をすれば袋叩きに会うことは間違いない。

古今東西、美人のいうことのほうが信憑性があるのだから。

すると狼が椅子を寄せてきた。

おそらく一緒に見ようということだろう。

これ以上こいつに近寄るなんて真っ平ごめんだ。

自殺行為に近い。

そう思った私はすぐさま

「ろ、狼、良い……」

言い終えるまもなく腕を掴まれた。

「お前、ここで俺のことバラす気か?」

で、脅される。

「え、じゃあ何て」

「暁(アキ)。そう呼べ。自己紹介聞いてなかったろ、お前」

ご名答です。

「えっと暁……?私は教科書要らないから」

なれない呼び名に戸惑っていると、にわかに教室がザワザワと騒がしくなる。

ついで密やかに交わされる会話。

「え?」

何のことか解らずにいると隣でチッと舌打ちされる。

「名字で呼べよ、名字で」

「あ、そっか」

こちらも充分小さいひそひそ声で応対していると

「あの、久遠さん?」

かわいらしい女の子が私たちの会話に割って入ってきた。








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