女子高生はオオカミ男。
放課後の悪夢
「おお。やるなぁ、あいつも」

「感心しないで、お願いだから!」

 ところ変わって学園の裏庭。鋼の忍耐力でこの日の授業を乗り越えた私は悠と連絡を取って、放課後にここで集まる約束をした。

 それで狼との同居問題を悠と凪に相談している最中なんだけれども。
 
 いかんせん、凪が下町のおやっさんのノリで面白がるから手に負えない。

 がっくりと肩を下ろす私に悠がフォローをいれた。

「でっ、でも狼って本当に嫌なことはしないよ?」

「じゃあ何で私にキスしたの? 私が嫌じゃなかったとでも?」

「……」

 疑わしそうな眼を向ける私にさすがの悠も黙り込まざるを得ない。

 そこで今度は凪が助け舟を出す。

「あ、ああ、でもあいつ、泣くと大抵のことはやめるぜ。女限定だけど」

「そういえばそうだね。優貴は泣かなかったからすぐにキスをやめてくれなかったんだよ」

 一人でうんうんと納得すると、悠はこちらを向いて微笑んだ。

「きっと大丈夫だって。狼だって仮にも人から生まれてきたんだから。たまには優しくしたりしてくれるよ、多分」

 きっと? 仮にも? たまには? 多分? 

 待て待て待て。不確定な要素がその台詞に四つもあることをお前は自覚してるのか!

 激しく不安だ。もう絶望だ。

 おそらく顔に表れていたのだろう、悠は急に真面目な表情になって言った。

「でも、本当にこれだけは知って欲しい。狼は意地悪だし女たらしだしエロいし不親切だし多重人格だけど」

 これだけ他人の短所をすらすらと述べられるなんて、もしかして悠も相当、腹黒いんじゃなかろうか……?

「でもその代わりに人の気持ちにはよく気が付く。感情の機微にすごく敏感なんだ。――あいつはとても寂しい奴だから」

 それが心の中でずしんと重さを持って、なんだか息苦しい気がした。

 『寂しい、奴なんだ』

 あいつにも、何かあるんだろうか。

「なーなー、狼スカートはいてたか?」

 笑いを含んだ凪の声が割り込んで、さっきまでの重苦しい雰囲気はどこへやら、私達は芝生に寝転んで思いっきり爆笑した。

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