素直になんかなれない
「つーか、お前このままでいいの?」
「…何が。」
「奈雲の事に決まってんだろ。」
他にあんのかよ、そう言って悠はタバコを靴の裏で揉み消した。
悠に潰されたその吸い殻が
何とも言えないくらい、見事にぺちゃんこで
それが自分と重なった俺は、どこか投げやりに答えた。
「…寧々が決めた事だ、仕方ねーじゃん。」
それに、と続ける。
そして組んだ手に力を込め
額にあてると、痛む胸を抑え言葉を吐き出した。
「俺はもう…寧々を傷つけたくない。」
――そう、俺はあの日
寧々に、フラれたあの日。
走り去っていく寧々を
引き止める事だって、無理矢理抱き締める事だって
いくらでも出来たはずなのに
俺はそうしなかった。
動けなかった、というのも本当だけど
その後連絡する事も、散々悩んだ末にしない事に決めた。
…何故かって?
多分、気が付いてしまったからだと思う。
自分の気持ちを押し付けるよりも
別れたほうが、寧々の為なのかもしれないと。
手放す事。
それもまた
ひとつの愛のカタチなのかもしれない、と。