素直になんかなれない
至近距離で睨み合う俺たち。
悠は俺の手首を掴み
顔色ひとつ変えず、挑発するように言った。
「お前は奈雲の為だって言って、逃げてるだけじゃねーか。」
「…んだと!?」
「実際そうだろ?ちゃんと向き合ってもねーくせに、偉そうな事ぬかしてんじゃねーよ!」
そう言い捨て、悠が俺を投げ飛ばす。
俺は見事にその場へ尻もちをついた。
そして、上から見下ろす悠に向かって
立ち上がった俺は、叫びながら拳を振り上げた。
「俺がいつ逃げたって言うんだよっ!」
次の瞬間
拳に走った鋭い痛みに、悠の体がぐらつく。
だけど悠は倒れる事なく
口元を乱暴に拭い、俺に向かって来た。
「お前のそうゆう所が、奈雲を傷つけたんだろーがっ!!!」
ボコっと鈍い音が響き、俺の頬に沈んだ悠の拳。
「おら、早く立てよ昴!」
「っ、なめんじゃねーぞ!!!」
それからは
お互い口を開く事もなく、無言の殴り合いだった。
静かな公園に響く、俺たちの唸り声と
頬を切る鈍い音。
だけど、不思議と痛みは感じなくて。
とにかく無我夢中に、悠へと拳を向けた。
全てを、吐き出すように。