素直になんかなれない
「……ヒヨコ?」
おうむ返しする俺に
悠は、ふぅと煙を吐き出して俺を見下ろした。
「いつだったか、奈雲にヒヨコのキーホルダーやっただろ。」
ほら、あのちっこいの。
そう言われ
ふいに駆け巡る、寧々と居た日々。
―――あれは
寧々と初めてデートをした時。
約束していた時間よりも、緊張のせいか
幾分早く待ち合わせ場所に着いてしまった俺は
暇潰しに、ゲーセンでぶらついていた。
そんな時、ふと目に止まった
まあるい小さなヒヨコのキーホルダー。
それがやけに寧々に似てるような気がして
気が付けば、俺はそのキーホルダーに2000円も費やしていたのだ。
今になって思えば
何であんな子供だましみたいなモン、必死に取ろうとしていたのかはわからないけれど
その時は、何故か
どうしても取りたくて。
寧々に、あげたくて。
結局、ムキになってようやく取れた時には
すでに待ち合わせ時間はとっくに過ぎていた。
慌てて駆けつければ
案の定、寧々は鬼のような顔で立っていて。
俺はどうにかご機嫌を取ろうと
色々話を振ったけれど、すっかりご立腹の寧々には全く効果ナシ。
そこで俺が手渡したのが
あの、ヒヨコのキーホルダーだった。