素直になんかなれない
どのくらいの静寂が
あたしたちを包んでいたんだろう。
だけど、きっとそれは刹那の出来事で。
息が詰まるようなこの空間は
あたしの涙ですら、無意味なモノに変えてゆく。
「寧々、」
昴が一歩、あたしとの距離を縮める。
でも、あたしはその距離を再び伸ばして呟いた。
「…も、いい、」
「え?」
霞む、昴の姿。
「もういいっ!」
「っ、寧々、」
あたしは素早く昴の手から自分のカバンを引っこ抜くと
踵を返し、猛スピードで走りだした。
「寧々っ!!!」
背中に、愛しい人の声を聞きながら。
『俺にとっては全部大事なんだよ。』
わかってるよ、そんな事。
昴は、みんなから慕われて
頼られて。
昴自身も、みんなを大切だって理解してる。
だけどそれならば
あたしは何の為に、誰の為に
こんな気持ち、抱えていなきゃいけないの?