素直になんかなれない


「奈雲って何で俺の事、苗字で呼ぶの?」

「え?」


その日の放課後。

約束通り
プリントを渡しに行った俺がそう尋ねると、寧々はきょとんと目を丸くしていた。



「いや、ほらみんな俺の事昴って呼ぶから何か気になって。」

「あ…、そうだよね…。」

「堅苦しいし、奈雲も昴でいいよ?」

「………、」


でも何故か
寧々はそこでだんまり。



少しずつ日が短くなったけれど

まだ夏の名残が香る教室で
俺は少し離れた寧々に首を傾げる。



「奈雲?」

沈黙を埋めるようにそう呼び掛けると、寧々はどこか躊躇いがちに、小さく呟いた。



「…苗字の方が、わかりやすい…でしょ?」

「え?」

わかりやすい?
何が?



意味がわからない、多分俺はそんな顔をしていたのだろう。

寧々は、続けて言った。



「苗字だったら、あたしが呼んでるって…すぐわかるかな、って…。」

「…あー、なるほど。」


何だ、そうゆう事か。




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