素直になんかなれない
さっきも言ったように
俺を苗字で呼ぶのは寧々くらいなもんで。
確かに
“相澤くん”って呼ばれれば
それがすぐに寧々だとわかるだろう。
だけど俺はふと思った。
…ん?
ちょっと待てよ。
だからって、何で自分だと俺にわかってもらいたいんだ?
そんな考えが過ぎった時、寧々が再び口を開いた。
グラウンドから聞こえる野球部の声に、消えてしまいそうな程小さな声で―――。
「…みんなと、同じじゃ……嫌なんだもん。」
ピンク色だった頬を赤らめて俯く寧々を
俺はただ間抜けな顔で見つめる。
サッカー部から届くボールを蹴る音が、無機質な教室に鳴り響いて。
止まっていた俺の思考は
少しずつ、確かめるように寧々の言葉を繰り返す。
「…え、っと、」
それって、つまり……、
少し遅れて出た俺の声は
相当戸惑っていただろう。
「寧々ーっ?帰るよーっ!」
「う、うん!今行く!」
結局、寧々が言った言葉の真意を確かめる事も出来ないまま
彼女が去った教室で一人、俺は立ち尽くしていた。