素直になんかなれない
そう、悠の考えとは
リレーの順番を変える、といったごく普通の事で。
だけど、俺にはかなり重要な事なのだ。
『いいか、昴。まず俺が一番で走って、吉田にパス。』
『はぁ?だって、一番は、』
『いーから黙って聞け。…で、その次が田中、飯島、奈雲…、』
『え!?じゃ、じゃあ、』
目を丸くした俺に
悠は口元を片方だけ上げて、俺の肩を叩いた。
『そーゆう事。』
ま、頑張れよ!なんて、まるで他人事。
張り切ってる悠に、たむちんも何も言えず
その申し出を飲んで。
俺は、寧々からバトンを受け取るハメに。
…でも、これがまた全然上手くいかないのだ。
バトンを受け取ろうとする度に
寧々の指先が俺の手に触れて。
その都度高鳴る鼓動に、俺は思わずバトンを放してしまう。
何とか触れないように、と試してみるけれど
それじゃちゃんと掴めなくてバトンは地面へと落ちるし。
バトンを渡すってのは基本中の基本なのに
全く、リレーに集中出来ない。
「…俺、かっこ悪…。」
そんなこんなで
バトン渡しだけで終わってしまった練習。
結局、ろくにバトンも受け取れず迎えた体育祭本番に
俺は溜め息ばっかりだった。