素直になんかなれない


「ほれ、行くぞ!」

「……あぁ。」


立ち上がった悠に、俺は重たい腰を上げた。



「昴~、頑張ってーっ!」

「絶対優勝しろよなぁ!」

飛んでくる声援にも、曖昧な笑みで返す。



この心のモヤモヤの原因はわかっていた。



アンカーというプレッシャー。

バトンをちゃんと受け取れるかって不安。


でも、一番の原因は――――。




「相澤くん、」

その呼び声に
俺の足が止まった。


振り返らなくたって
声の主が誰かなんてわかりきってる。



…鼓動が速まり始めて。

俺は少し躊躇いながらも
ゆっくり後ろに体を向けた。


瞬間、目に付いたおだんごに
更に心臓は高鳴る。



「頑張ろうね!」



笑う寧々の笑顔が胸を締め付けて

「……おう、」

そう返すのが、精一杯だった。







< 32 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop