素直になんかなれない
あたしは腕を掴まれたまま
昴から床へ視線を下げた。
視界に映るのは
汚れたクリーム色した廊下と
履き潰した、昴の上履き。
…どうしてなのかな。
こんなにも昴は近くに居るのに
何だかすごく遠く感じてしまって。
「寧々…?」
触れられる距離に居るのに
心はすごく、離れてしまってるような
そんな錯覚さえしてしまう。
「寧々、ちゃんと言って。」
昴は、目の前に居るのにね。
「…顔上げて?」
俺の目見てよ、そう言われ
ゆっくりと顔を上げようとしたその刹那
「昴ーっ!何してんだよ~!」
そんな声が、廊下の端から届けられる。
昴は一瞬顔をしかめ
少し気だるそうに声を張り上げた。
「ちょっと待ってて!後で行くちゃんと行くからっ!」