素直になんかなれない
だから兄貴は俺にとって
憧れでもあり、目標でもあり
いい意味で、一番のライバルなのだ。
シン、と静まった部屋で
俺は視線を下げたまま、確かめるように言葉を繋いでゆく。
「…たけ兄はさ、」
「うん?」
「何で…真弓さんと結婚しようと思ったの?」
唐突に投げた質問に、たけ兄はきょとん、と目を丸くした。
だけどすぐに笑顔を作ると
「さては昴、彼女と何かあったんだろ。」
なんて余裕ぶった口調で話すから、俺は慌てて否定してみる。
「な、何でそうなるんだよ!俺はただ、どうして結婚するのか…、」
「ぶっ、冗談だって。」
「…っ~、」
さすが兄貴。
俺の考えてる事なんて、手に取るようにわかるんだろう。
そう言えば、ゲームだってプロレスごっこだって、兄貴はいつも俺の考えを先読みしては
絶対に勝たせてはくれなかった。
『昴。悔しさは、男を強くするんだ。』
そんな事言って、最後の最後まで手加減なし。
そう思うと、たけ兄に教師という仕事は適職なのかもしれない。